営業成績を上げたいと考えているなら、注目すべきは「マジカルナンバー」という認知心理学の概念です。人々が短期記憶で保持できる情報量は意外に少なく、この「マジカルナンバー」を意識することで、顧客へのアプローチを最適化し、より効果的な営業を展開することが可能です。本記事では、認知心理学の基礎から「マジカルナンバー」を活用した営業テクニックまで、具体的な方法をご紹介します。
認知心理学とは何か
認知心理学は、人間の心、特に知覚、記憶、思考、言語、学習、意思決定、行動選択などの認知の働きを解明することを目的とする心理学の一分野です。人間の知的な心の働きに関する学問分野として、今後も、ますます研究の進展が期待されています。
マジカルナンバーとは?
マジカルナンバーとは、人間が短期記憶として記憶できるチャンクの上限値を表す言葉です。チャンクとは、一度に記憶できる情報のまとまりのことをいいます。心理学者であるジョージミラー教授(元プリンストン大学及びハーバード大学等の教授)の研究(1956年)によると、短期記憶では、人間は「7±2」つまり5~9個のチャンクしか記憶できないとされていますいうことです。
しかしその後、2001年にミズーリ大学のネルソンコーワン教授によって「4±1」つまり「マジカルナンバーは3~5だ」という論文が発表されました。このマジカルナンバーという概念で重要なことは、人間が短期間で記憶できるチャンク数は、思っている以上に少ないという点にあります。
ここが最も重要で、ビジネスでも忘れてはいけない点です。このマジカルナンバーを活用して、営業成績を上げる方法を説明します。
マジカルナンバーの3つの要素
チャンク (Chunk)
複数の情報をひとまとめにした単位。例えば、「電話番号」は「03-1234-5678」のように、ハイフンで区切られた3つのチャンクに分けられます。
短期記憶 (Short-term memory)
情報を一時的に保持する記憶。
短期記憶とは、情報を一時的に保持する記憶の形態です。短期記憶は、比較的短い期間(通常は数秒から1分程度)情報を保持する能力を指します。この記憶は、一時的に必要な情報を処理したり、短時間での決断や計画を行う際に重要な役割を果たします。例えば、電話番号を覚えてからダイヤルするまでの間や、ある数式を計算する間に使われる記憶です。
心理学的には、記憶には主に3つの機能があります。
- 記銘(memorization): 感覚器官から入力された情報を覚える機能。
- 保持(retention): 記銘によって覚えたことを忘れずに維持し続ける機能。
- 想起(remembering): 保持した情報を思い出す機能。
ワーキングメモリ (Working memory)
情報を処理し、操作する記憶。
ワーキングメモリーは、情報を一時的に保持し、処理する能力です。作業記憶や作動記憶とも呼ばれます。
短期記憶とよく混同されますが、短期記憶は情報をただ保持するだけの機能なのに対し、ワーキングメモリーは情報を保持するだけでなく、その情報を使って思考したり、問題を解決したりすることができます。
例えば、誰かと話しているとき、相手が話したことを覚えておき、その内容を理解した上で、自分の考えを伝えなければなりません。これは、ワーキングメモリーの様々な機能が働いている例です。
マジカルナンバーの活用事例
マジカルナンバーは、あくまでも平均的な値であり、個人差があります。しかし、人間の認知能力を理解する上で、重要な指標となるのです。
プレゼンテーション
プレゼンで伝えたい主要なポイントは7つ以下に絞り、さらにそれらをいくつかのまとまり(チャンク)に分けて提示するのが効果的です。人間の記憶力に配慮した分かりやすい構成にできます。
商品の特長や価格の説明
商品の主な特長は最大で5つまでに絞り、それを基本に説明すると伝わりやすくなります。価格提示も分割して説明するなどの工夫ができます。
製品デザイン
ボタンやメニューの数を7以下に抑えることで、ユーザーが迷わず操作できるようになります。シンプルなことがとても大切になってきます。説明書がなくても使える製品デザインになっているとベストです!
商談時のアプローチ
営業において必要なのは、顧客に情報を伝え、理解してもらうことです。デキる営業マンや商社マンほど、商談がシンプルです。聞かれたことに的確に短く答えるだけなのです。これは顧客が理解して覚えてくれる量は少ないことを理解しているからです。
もし一度の商談で多くの情報を相手に与えてしまっているなら、相手がその情報を覚えられていない可能性が高いので、調整しましょう。選択肢を少なくすることで顧客の脳内に重要な情報が残り、検討もスムーズに進み、その結果契約に結び付くのです。
サービス設計での活用
例えば、自社のサービス又は製品の価格を決めるときに、顧客に理解してもらえる設計を意識するべきです。その際に、顧客が理解できる範囲の3~5つのシンプルなプランを設定することが大事です。ポイントとしては、顧客が1分ほどその資料を眺めれば、大体の大枠を理解できるくらいのシンプルな設定にすることです。
極端な例ですが、以下のようなものが該当します。
松コース:12,000円
竹コース: 7,000円
梅コース: 5,000円
これが、マジカルナンバー(3~5)の範囲内のチャンクです。このような設定にしておけば、顧客は記憶の中だけで検討を進めることができます。
まとめ
この記事では、認知心理学における「マジカルナンバー」の概念が、営業活動にどのように活かせるのかを解説しました。顧客の記憶容量は限られていることを踏まえ、情報をシンプルにまとめ、分かりやすく伝えることが重要です。この概念を意識することで、より効果的なコミュニケーションが可能になり、営業成績の向上に繋がります。