はじめに
「いい提案だと思うけど、もう少し考えたい」
「社内で検討してからまた連絡しますね」
手応えはあるのに、なかなか決めてもらえない。
営業をしていれば、誰しもが経験するこの場面。
あと一歩。あと一言で決まりそうなのに、どうしても踏み出してもらえない。そんなとき、あなたはどんな言葉をかけていますか?
クロージングの場面で「押しすぎる」と引かれる。でも、何も言わずに待つだけでは次のアクションに進めない。
だからこそ大切なのが、迷っている顧客の背中をそっと押す言葉です。
本記事では、そんな絶妙なタイミングで効果的に響く「一言」の使い方と考え方を、営業現場のリアルとともにお届けします。
決断をためらうお客様の心理とは?
まず知っておきたいのは、「迷っている顧客」はNOと言いたいわけではないということ。
むしろ、関心はある。納得もしている。
それでも決めきれないのには、いくつかの心理的なハードルがあります。
失敗への恐れ
「決めた後に、後悔するのではないか」という不安。
とくに高額な商品や長期契約の場合、慎重になるのは当然です。
「効果を期待して契約して、効果がなかったらどうしよう」
「効果がなかったら上司に怒られるな」
顧客はいろいろな形で失敗への不安を抱えているのです。
社内・周囲の目
「自分だけで決めていいのか」「上司はどう思うだろう」といった外部要因によって決断を保留しているケースも多いです。
「自分はいいと思っていても周りはいいと思うだろうか?」
「上司は、必要だと思うだろうか?」
このように、周囲の考えがどうかわからないことによって決めきれないパターンはよくあります。
「今決める理由」がない
「急がないし、まだいいかな」と感じている場合、今動くメリットが見えていないのです。
今すぐ決めないと大きな損失が発生するわけではないからと、後回しにするケースは少なくありません。
このように、迷っている顧客には論理的な不安と感情的な揺らぎが入り混じっています。
そのため、単に情報を足しても動かないことが多いのです。
「押す」ではなく「寄り添う」がカギ
迷っている顧客にとって、「ぐいぐい来る営業」は不安を加速させます。
一方で、「待ってます」と放置されると、関心が薄れたのかな?と感じてフェードアウトしてしまう。
だから大事なのは、決断の責任を相手に押しつけず、寄り添いながら背中を押す一言を添えることです。
このスタンスを持つだけで、お客様との空気が変わります。
顧客のタイプ別「そっと背中を押す一言」
ここからは、よくある迷っている顧客のタイプ別に、効果的な「背中を押す一言」をご紹介します。
タイプ①:「いいとは思うけど、決めきれない」タイプ
背景の心理:「悪くはないけど…決め手がない」
このタイプには、自分の中で納得を深めるきっかけが必要です。
🔹 一言例:
「ちなみに、〇〇様が今踏み出しきれない理由って、どんなことが大きいですか?」
決断を促すのではなく、悩みを共有する一言。
ここで決断できない理由をヒアリングして、その理由を潰せれば契約までいく可能性は高くなります。
「迷うということは、真剣に考えていただけている証拠ですね。何が決まれば一歩進めそうでしょうか?」
真摯な姿勢を伝え、顧客自身の「決める理由」を引き出します。
これも、先ほどと同じくヒアリングです。顧客が求める部分を追加することで契約に繋がるでしょう。
タイプ②:「社内の目が気になっている」タイプ
背景の心理:「自分ではいいと思うけど、社内で通るかが不安」
🔹 一言例:
「ご提案の内容はもちろん、上司の方にどう伝えるかも一緒に考えますね」
単なる提案者ではなく伴走者という印象を与えます。
どうしたら上司のOKが出るか、一緒に考えることで担当者との関係性は深くなります。
また、今後上司にどうアピールするとよいか知見もたまるので、おすすめです。
「もしよければ、〇〇様の上司の方にも、私から直接ご説明させていただくこともできます」
顧客が自分一人で背負う必要はないと安心します。
上司に話をするのが苦手な方もいらっしゃいます。
その場合は、あなたが直接提案すると伝えることで、前向きになってもらいやすいでしょう。
タイプ③:「今、決める理由がない」タイプ
背景の心理:「そのうち…」と判断が先延ばしになっている
🔹 一言例:
「今決めることで、〇〇という点では〇月スタートより有利です」
時期のメリットや希少性を事実ベースで伝えます。
ここは営業としての腕の見せ所。
なぜ早く契約したほうがいいのかをちゃんと説明して、そのメリットを伝えましょう。
「いつかやるなら、早くスタートしたほうが失敗する余白も取れますよね」
早く決める価値を、押しつけではなく選択肢として提示。
顧客の性格にあった選択肢、考え方の提案をして、選択を後押ししましょう。
現場で効果があった!「背中を押した一言」リアル事例
事例①:「ご不安な点、全部お聞きしてもいいですか?」
ある人材サービスの営業では、最終面談で急にトーンダウンした企業に対してこの一言を投げかけたところ、「実は社内で過去に似たサービスを入れて失敗していて…」という懸念が判明。
その後、その失敗の原因を丁寧に紐解き、自社の違いを説明したことで成約に至りました。
この事例は、お客様の言えない本音を引き出すフックになった一言です。
事例②:「このタイミングで決める方が、あとから振り返ってよかったと感じると思います」
ITシステムの導入を渋っていた企業に対し、焦らせるのではなく、
未来の視点から安心感を与えるこの一言が決め手に。
「無理に決めさせられた感がなく、納得して進められました」と後日感謝されたそうです。
この事例では、不安に寄り添いつつ、未来への安心を与える言葉が顧客の後押しに有効だったパターンです。
絶対NGな一言:信頼を壊す押しすぎ営業
いくら背中を押したいからといって、以下のような言葉は逆効果です。
- 「これ、今決めた方が得ですよ」
→ 今決めないと損という言い方はプレッシャーに感じられやすく逆効果に。 - 「みなさん、これで決めてます」
→ 他人の例を押しつけられると、自分の判断が軽視されていると感じてしまう。 - 「もうこれ以上は引けません」
→ 追い込むような言い方は、信頼を壊すだけです。
大切なのは、選んでもらう余白を残すこと。
営業が「決めてもらう」ためにできるのは、決断しやすい状態を整えることにすぎません。
まとめ:一言で変わる、営業の印象と結果
迷っている顧客に対して、「待つ」だけでも「押す」だけでもない。
重要なのは、寄り添って導くというスタンス。
そしてそのスタンスを相手に伝えるのが、「そっと背中を押す一言」です。
今日から使えるアクション3つ
- 決めきれない理由を正直に話せる空気をつくる
例:「何がネックになっていそうでしょうか?」 - 顧客の事情を一緒に考える伴走者になる
例:「上司の方への説明、こちらでもお手伝いできますよ」 - 今決める意味を事実ベースで提示する
例:「〇月スタートだと、〇〇が間に合います」
顧客にとって心地よい一言は、営業としての信頼感の表れです。
あなたのその一言が、迷っていた顧客の背中をやさしく押し、前に進むきっかけになるかもしれません。