はじめに
「そろそろご決断いただけますか?」
「では、導入ということでよろしいでしょうか?」
このような決めの言葉を伝えるたびに、お客様の表情が曇っていく。
そんな経験はありませんか?
一昔前の営業スタイルでは「強めに背中を押す」ことでクロージングに持ち込む手法が主流でした。ですが今、多くの顧客は押されることに敏感です。「売り込まれている」と感じた瞬間に、距離を置こうとする傾向があります。
では、どうすればいいのか?
答えは「押さずに導く」というスタイル。
顧客自身が納得し、自分の意思で「これにします」と言いたくなるように自然と意思決定へと向かう流れを作るのが、現代営業のクロージング力です。
今回は、押さないクロージングを実現するための「誘導の技術」を具体的に解説していきます。
クロージングは「決める」ではなく「気づかせる」
営業というと、つい「最後にクロージングを決めにいくもの」という発想になりがちです。しかし、本当に成果を出している営業ほど、クロージングを押すとは考えていません。
彼らが意識しているのは、
- 顧客が自分の課題を自分で理解できているか?
- 解決策として提案内容が自分にフィットしていると実感しているか?
- 決断に必要な材料が揃っているか?
つまり、「決めさせる」ではなく、顧客が自然に決断に至る状態を整える誘導をしているのです。
なぜ押すと、決まらなくなるのか?
人は、他人に選ばされると心理的に抵抗(リアクタンス)が生まれる生き物です。
「買ってください」と言われれば言われるほど、「本当にそれでいいのか?」「押されてるだけじゃないか?」という警戒心が働きます。
これが、いわゆる押し売り感です。
一方で、同じ内容でも「自分で選んだ」と感じられると納得感が生まれ、購入後の満足度も高まるという心理が働きます。
顧客が「自分自身で判断して買った」と認識することで、購入後の不満感やクレーム率も下がります。
つまり、営業は「決めてもらう」ために、決めたくなる状況をつくることが求められているのです。
押さないクロージングを実現する3つの誘導術
① 選択肢を提示して、主体性を与える
「買いますか?やめますか?」と2択で迫るのではなく、
「どちらのプランが御社にとってより効果的だと感じますか?」と、選択肢の中で選んでもらう設計が効果的です。
例:
「ベーシックプランでも十分効果は出ますが、スピードを重視される場合はプレミアムプランの方が向いているかもしれません。〇〇様のお考えに近いのはどちらでしょうか?」
このように、選ばせる場面ではなく、考えさせる場面を設計することで、押し付けではない自然なクロージングが可能になります。
提案の幅を広く持たせることで、顧客の細かいニーズも理解しやすくなり、顧客としても自分で選んだと認識できます。
② 顧客自身の言葉で「理由」を語ってもらう
納得して決断するためには、自分の中にある理由を言語化することが大切です。
そのためには、「なぜこの提案が気になっているのか?」を相手に話してもらうことが有効です。
例:
「このご提案、〇〇様にとってどんな点が特に響いていますか?」
「もし導入されるとしたら、一番期待されている効果はどのあたりですか?」
顧客が自分の言葉で話すほど、その選択は自分の意思として腹落ちしやすくなります。
これは、クロージングの決定力を格段に上げるステップです。
③ 決断のハードルを少しずつ下げる
いきなり「契約してください」と言われると身構えるものです。
顧客の決断のハードルを下げることで、一歩踏み出す後押しをしましょう。
例:
「まずは無料トライアルから始めてみませんか?」
「来月からのスケジュールを仮押さえしておきましょうか?」
といったように、一段階下の行動から誘導することで、心理的なハードルが下がります。
この「スモールステップ」の積み重ねが、クロージングへの自然な流れをつくる鍵です。
「押さないクロージング」が成功した事例
あるIT商材を扱う営業マンの事例をご紹介します。
Aさんは、提案資料を完璧に仕上げたにもかかわらず、ある顧客から何度も「検討します」と言われ、なかなか成約につながらない日々が続いていました。
そこでAさんは、次の商談から次のように変化を加えました。
- 「弊社のサービスについて、気になっている点を率直に教えてください」
- 「このご提案の中で、一番効果がありそうだと感じたのはどのあたりですか?」
- 「今すぐ導入でなくても大丈夫です。まずはお試しいただく形でスタートしませんか?」
結果、その顧客は「営業感がなくて、逆に信頼できた」と好感を持ち、導入を決定。
「Aさんは売り込まないのに、なぜかお願いしたくなる」と言われるようになりました。
これはまさに、「押さない誘導」が功を奏した好例です。
クロージングとは合意形成の確認
営業のゴールは、押して決めさせることではなく合意を確認することです。
つまり、商談の中でしっかりと共感・納得・期待を積み重ねてきたのであれば、クロージングとは「確認作業」でしかありません。
たとえば次のようなフレーズです。
- 「ここまでのお話で方向性は合っていそうですか?」
- 「それでは、次回導入に向けた準備を進めてもよろしいでしょうか?」
- 「他にご不明点がなければ、この内容で進めていきましょう」
これらの言葉は、顧客の判断を尊重しながら、自然な意思決定を引き出す優しいクロージングです。
今日から使える!「押さないクロージング」チェックリスト
以下は、クロージング前に活用できるチェック項目です。
チェック項目 | 内容 |
---|---|
顧客は課題と目的を自分の言葉で話せているか? | 共感と自発的な理解があるか |
選択肢を提示し、自分で選ばせる形になっているか? | 押しつけになっていないか |
小さな行動から誘導できているか? | 無料体験・仮スケジュールなど |
決断の不安は取り除けているか? | 価格、社内稟議、効果などへの対応 |
最後に「確認するだけの状態」になっているか? | 押し込まず、自然に背中を押せるか |
おわりに
「押さないクロージング」は、決して弱い営業ではありません。
むしろ、顧客との信頼関係を築き、長期的な関係をつくる最強の営業スタイルです。
無理に押しても、断られれば関係は切れてしまいます。
でも、押さずに誘導し、顧客が自ら決断した形になれば、納得感・満足度・リピート率が格段に高まるのです。
ぜひあなたも、今日から「押さないクロージング」に挑戦してみてください。
お願いしたくなる営業は、信頼と安心から自然に生まれるのです。