はじめに
提案内容には自信がある。ヒアリングも丁寧にやった。それでもなぜか「決まらない」。
そんな悩みを抱える営業パーソンは少なくありません。
「クロージングが苦手」「押しが弱い」と自分の性格のせいにしてしまう人もいますが、実はその原因は、クロージング前の準備にあることが多いのです。
営業の成否は、提案の直前やクロージング時ではなく、もっと早い段階から決まっている。
本記事では、営業マンが見落としがちなクロージング前の準備について具体的に解説していきます。
決まらない営業に共通する「3つの準備不足」
営業のクロージングがうまくいかない人に共通するのは、以下の3つの準備不足です。
1. 「決裁権者」を把握していない
提案の場に同席している相手が、実は意思決定に関与していないケースは少なくありません。
特にBtoB営業では、上長や別部署、経営層の承認が必要な場合も多く、誰が最終的に判断するのかを最初に確認しておくことが不可欠です。
「良いですね。社内で検討してみます」という返答は、実はクロージングできないサイン。
この事態を防ぐには、ヒアリング段階で次のような質問を入れておくと効果的です。
「今回のご提案に関して、最終的にご判断される方はどなたでしょうか?」
営業において提案する先は、目の前の担当を通した先にいる決裁権者です。
目の前の担当が良いと思っても、決裁権者が良いと思わないと契約には至りません。
決裁権者がわかったら、決裁権者のニーズや性格を担当からヒアリングして、提案戦略を立てましょう。
2. 顧客の「購買動機」をつかんでいない
機能や価格の説明に終始し、「なぜこの提案を検討しているのか?」という根本の動機に踏み込めていないケースも多く見られます。
クロージングは、お客様自身の感情や納得感を動かすプロセスです。
特に以下のような動機を把握しているかどうかで、成約率は大きく変わります。
- 今回の課題は、どのような背景で発生しているのか?
- 解決することで、社内・本人にどんなメリットがあるのか?
- 競合と比較して、なぜ自社の提案が合っているのか?
提案内容が同じでも、相手の動機に沿った話ができていなければ、決して「刺さる」提案にはなりません。
そのためにも、顧客が何を望んでいるか、しっかりとヒアリングしましょう。
3. クロージングに必要な「材料」が揃っていない
「検討します」で終わる提案は、たいてい意思決定に必要な材料が不足している状態です。
営業としては「説明したつもり」でも、以下の要素が不足していれば、相手は決めようがありません。
- 数字による効果の裏付け(導入実績・ROIなど)
- 実際の導入ステップやスケジュール
- 社内稟議に使える資料・説明用データ
- 不安に感じやすいポイントへのFAQ的な対応策
クロージングに向けては、「決めるために必要な道具を相手に持たせる」という視点が不可欠です。
自分が顧客側だったとき、判断に必要な情報は何か?
それをすべて予め準備しておきましょう。
営業に必要なのは、商談ではなく、その準備が8割ともいわれています。
クロージング成功のカギは「逆算思考」
営業のゴールが「受注(=決断)」であるならば、そこから逆算して準備を進める必要があります。
逆算の基本ステップ
- 誰が決めるのか(決裁者)
- 何を持って判断するのか(意思決定基準)
- いつ判断するのか(タイミング)
- 何が足りないと判断されないのか(不足情報)
この4つをヒアリングの初期段階で確認し、そのギャップを埋める形で提案準備を行う。
これこそが、クロージングを「押す」ものではなく「導く」ものに変える営業のスタイルです。
現場でよくあるもったいない失敗例
ここで、クロージングに失敗したある事例を見てみましょう。
失敗例 意思決定者を読み違えた
ある営業マンAさんは、部長クラスの担当者に対し、約3ヶ月にわたって丁寧に提案を重ねていました。
提案資料も説得力があり、担当者の反応も上々。しかし、いざクロージングを試みたところ…
「いい提案だと思いますが、うちの社長が慎重なので…一度見せてみます」
結果、社長にはうまく意図が伝わらず、他社が先に決められてしまいました。
Aさんは「もっと早く社長の視点を把握していれば、別の提案資料にしていた」と後悔。
このように、決裁者の理解を得る設計ができていなかったことが、直接的な敗因となるのです。
クロージングを成功させるための3つの準備チェックリスト
最後に、提案前に確認しておきたいクロージング準備のチェックリストをご紹介します。
チェック項目 | 内容 |
---|---|
決裁権者は明確か? | 決定権を持つ人は誰か、情報は届いているか |
意思決定基準は把握しているか? | 価格?実績?安心感?どんな要素が決定要因か |
顧客の動機は言語化されているか? | なぜその提案が必要か、本人が語れる状態か |
必要な情報は揃っているか? | 比較資料、導入スケジュール、実績データ等 |
クロージングの場は整っているか? | 時期・タイミング・メンバーは最適か |
これらが揃っていれば、クロージングの場で押し込む必要はありません。
相手が自ら「これでいこう」と思える環境が整っている状態にできます。
おわりに
営業のクロージングは、最後の「一押し」ではなく、それまでの準備と設計の積み重ねによって自然に導かれるものです。
「押しても決まらない…」と感じているなら、一度クロージング前の準備を見直してみましょう。
小さな確認の積み重ねが、大きな成果への第一歩となります。